JR西日本グループ 
Inovation & Challenge Day 2024
パネルディスカッション
【官民連携で作る持続可能な地域の暮らし】

開催日時
:12月6日(金)10:30-11:30
開催場所
:グランフロント大阪北館B2F コングレコンベンションセンター
趣旨
:産学官のパネラーを招き、JR西日本グループが中心となって推進する総合インフラマネジメント事業「JCLaaS(ジェイクラース)」を通じて共に創っていくこれからの地域社会について、福知山市水道事業での官民連携(jclaas.jphttps://www.jclaas.jp/assets/pdf/pressrelease_240426.pdf)も事例としながらディスカッションを実施しました。

パネラー
福知山市 上下水道事業管理者職務代理者 上下水道部長/中村 直樹 氏(写真中央右)
甲南大学 経済学部 教授/足立 泰美 氏(写真中央左)
ウォーターサービスきほく株式会社 代表取締役
兼 メタウォーター株式会社 PPP本部 西日本統括部部長/松尾 晃政 氏(写真右)
モデレーター
西日本旅客鉄道株式会社 専務執行役員
デジタルソリューション本部 ビジネスデザイン部長/藏原 潮(写真左)

【テーマ1】地域の暮らし(インフラ)を支えるこれまでの動き

官の立場から~福知山市が包括的民間委託を導入した経緯や効果~

(中村)福知山市では人口減少や料金収入低下、更新工事需要の高まりを受け、持続可能な水道事業運営に向けての取組が必須の状況において、適正な料金設定、効率的な組織体制、広域化の推進等について検討し、2017年に料金改定、2021年には包括的民間委託の導入を決定しました。それまで水道事業における包括的民間委託の事例は少なかったですが、水道事業の根幹は市が責任を持ち、民の強みを引き出しながらお互いがWin-Winの関係になることを丁寧に説明することで、市民、議会が抱く悪いイメージも払拭出来たと感じています。結果、業務安定化・事務効率化・意思決定の迅速化に繋がっている他、経費節減、有収率の向上、経常収支比率の改善、自治体職員の働き方改善等の効果にも繋がっています。2024年には、市民サービスの更なる向上、意思決定の迅速化、経理内容の明確化、ガバナンス強化を目的にSPCを設立し、民間委託の範囲に更新工事を加え、第二次包括的民間委託を開始しました。

福知山市 上下水道事業管理者職務代理者 上下水道部長/中村 直樹 氏

民の立場から~官民連携に対する手応えと民間事業者側が抱える課題~

(松尾)1999年のPFI法改正により公共事業で民間資金活用が可能となったことや、2023年に内閣府からウォーターPPPの数値目標が示されたことから、上下水道事業における官民連携の議論は活発化しています。官民連携を推進する中で、自治体単独では取組めないことに対して民間事業者の強みを発揮できる点に手応えを感じている一方、担い手の確保・PPP/PFIにおける適切な利益確保・官と民の役割分担の明確化、が課題だと感じています。

(藏原)民間事業者の強みが発揮できる点としてDXがありますが、どんな活用が期待されるでしょうか。

(松尾)例えば、複数の施設を1箇所で集中監視・管理する等、事業間の壁を越えて行動変容を促すようなDX技術の活用は、自治体単独には出来ない民間事業者ならではの強みだと認識しています。

ウォーターサービスきほく株式会社 代表取締役
メタウォーター株式会社 PPP本部 西日本統括部部長/松尾 晃政 氏

学の立場から~日本のインフラが置かれている状況、それを踏まえた国の施策~

(足立)今ある公共インフラは高度経済成長期の人口動態に沿って作られたものであり、現在の人口動態とは前提が大きく異なっています。施設の需要、稼働率が低下し供給過多の状況が進む中、民営化・広域化・複合化への取組が大事です。また、限られた自治体のリソースを踏まえると、老朽化対策の観点においては、予防保全や事後保全への取組が重要である一方、現実には致命的な損傷や重大な事故が発生しており、組織体制の見直しが迫られている状況です。かかる中、国交省は2013年に社会資本メンテナンス元年と謳い、社会資本のメンテナンスサイクル確立・施設の集約再編・地方公共団体への財政措置に取組み、2022年には第2フェーズと位置づけ、群マネを推進しています。ただ、群マネが普及していないことも事実であり、複数の自治体や事業を束ねるのは非常に難しく、首長の強力なリーダーシップが必要になります。福知山市が斯様な取組を進めることが出来ているのはまさに強力なリーダーシップと、サポートする民のパートナーの存在があるからこそだと感じています。

(藏原)「複数の自治体を束ねるのは難しい」旨のコメントがありましたが、福知山市において今の事業を広域化するとなると、やはりハードルは高いでしょうか。

(中村)総論的には賛同を得られますが、各論となるとなかなかまとまりません。足立教授の仰る通り強いリーダーシップ、核となる市町がいないことには広域化は進まず、また福知山市がその核になることも難しいです。ひいては、都道府県レベルの大きな自治体が主となり進めるべきだと考える他、広域化の検討にかかる費用の補助等、国のサポートも必要になります。

講演会場の様子

【テーマ2】
持続可能な暮らしの実現に向けて

官の立場から~ウォーターサービスきほくやJCLaaSに今後期待していること~

(中村)各自治体は、ヒト・モノ・カネの三重苦を抱えており、加えて大きな課題の一つにインフラの維持管理があります。かかる中、官民連携は非常に有効な手法であり、民の強みを発揮できる分野は民に任せ、官が本来取組むべき「街づくり」を描く感情を自治体職員に醸成させることが重要です。その観点では、福知山市の水道事業を共に守っていくパートナーとしてウォーターサービスきほくという地元に根付いた会社が設立されたことは大変意義があり、今後第三次包括委託に向け、ウォーターPPP導入や近畿北部圏域での上下水道事業の広域連携、更には道路事業への複合化にも取り組みたく、その一躍を同社に担ってもらうことを期待しています。また、JCLaaS事業第1号案件として、同社事業へJR西日本に参画いただいたことに非常に感謝しています。自治体毎に抱える課題は異なりますが、その課題を正確に把握し、官民お互いがWin-Winになれるよう、JCLaaS事業を推進いただくとともに、JR西日本の強みを生かしながら、これからのインフラマネジメント事業の中核を担っていただきたいと考えています。

民の立場から~国、自治体の課題や、民間企業に求められること~

(松尾)国側の課題は、水業界において広域化が進んでいない、更にはPPPと広域化が統合的に設計されていないことです。また、インフラマネジメントの担い手を育成する観点では、地方自治体職員を民間企業に出向できる制度を整えていただくことも、検討いただきたいと考えています。自治体の課題は、先ほどの話にも出た通り、リーダーシップを発揮いただくことです。地元企業や自治体間の利害調整は民間企業には成し得ません。民間企業については、公共事業を担う上では透明性の確保や説明責任、が求められます。その点、JR西日本とともに事業をする中で、学ぶべきことも多いと感じています。

(藏原)前段でコメントいただいた「適切な利益の確保」についてもお話いただけますでしょうか。

(松尾)水道事業においては他分野のPFIと異なり、水道料金を上げたからといって収入が増える訳ではなく、民間事業者はコストダウンで利益を確保せざるを得ません。ひいては、スケールメリットを出すべく広域化が必要であり、性能発注による民間の創意工夫が必要不可欠となります。一方、コストダウンのみならず、水道事業が持つポテンシャルを十分に発揮させ、バリューアップを図り利益を確保することも重要です。

学の立場から~今後更に求められるDX技術の活用~

(足立)先ほども話題に上がったDX技術の活用は、水道に限らず他分野においても持続可能な暮らしの実現に向けて重要です。例えば、地域住民を巻き込み、一般車両のドラレコを活用することで自治体にインフラ管理者を配置する必要が無くなります。日常生活に必要不可欠な分野から優先的に取組み、必要性が薄い分野については余力があれば取組めばよいのです。担い手不足の状況下において、地域住民を巻き込みながらDX技術を活用することが重要です。

甲南大学 経済学部教授/足立 泰美 氏

フリーディスカッション

(藏原)JR西日本でもローカル線の検討等を通じて、住民の理解を得て巻き込むことは非常に難しいと感じています。行政においても難しいのではないでしょうか。
(中村)非常に難しいです。住民が少ないからといってその地域を切り捨てることは出来ず、1軒でも家があるならば、水を供給せざるを得ません。また、住民が全くいなくなったとしても、水道設備は消防の役割も兼ね揃えており、消防署との協議が必要になります。税金を払ってもらっている以上、同じ質のサービスを提供せねばならず、単に赤字だからと言って事業をやめる訳にはいきません。

(藏原)民間事業者として、ここがこうなったらより官民連携が進む、と思っていることはありますか。
(松尾)インフラの持続を従来通り自治体主体で取組むのか、あるいは官民連携なのか、その選択をマクロ且つ長期的視点で自治体には検討いただきたいです。要は、採用・育成・災害対応・カーボンニュートラル等、長期的に必要なコストを踏まえて、自治体主体なのか官民連携なのか検討いただくことで、より官民連携によるコスト削減効果を見出しやすくなると感じています。

(藏原)持続可能な暮らしの実現を推進する為には、何が突破口になるとお考えでしょうか?
(足立)民営化、広域化、複合化といっても地域特性によって実現が難しいケースが多く、単にリーダーシップを取れば良いという話では無いですし、コンセッションの事例を見ても契約内容はそれぞれ異なります。それぞれの地域特性に沿った検討をすることが突破口と言えるのではないでしょうか。

西日本旅客鉄道株式会社 専務執行役員
デジタルソリューション本部 ビジネスデザイン部長/藏原 潮

(藏原)広域化・複合化のハードルが高いことは、本日お三方の話を聞いて改めて認識した一方、JR西日本は各自治体と面で広くお付き合いを続けており、その強みを持って産官学の皆さまと連携することが、今後の突破口になり得ると、意を強くすることが出来ました。また、JR西日本グループは、私たちの志に「人、まち、社会のつながりを進化させ、心を動かす。未来を動かす。」を掲げています。まさに皆様からのお話にもあったように将来像を描きながら、JCLaaS事業に限らずJR西日本グループで様々な形で持続可能で暮らしやすい人々が豊かな暮らし作りのお役に立てるように頑張っていきたいと思います。