JR西日本グループ
Inovation & Challenge Day パネルディスカッション
『技術力と市民力が築く次世代のインフラマネジメント
~インフラマネジメントの鍵「2つの見える化」~』
- 開催日時
- :2026年1月27日(火)15:15-16:35
- 開催場所
- :グランフロント大阪北館B2F コングレコンベンションセンター
- 趣旨
- :八潮市道路陥没事故に見られるように、日本のインフラは、老朽化、財源不足、人財不足などの課題に直面しています。産学の有識者を招き、技術力強化や、市民参画によるインフラマネジメントのありかたとJCLaaSの貢献について、議論を行いました。

- パネラー
- 神戸大学 大学院 工学研究科 市民工学専攻 教授/鍬田 泰子 氏
株式会社インフラ・ラボ 代表取締役
横浜国立大学 総合学術高等研究院 客員教授/松永 昭吾 氏
西日本旅客鉄道株式会社 専務執行役員
デジタルソリューション本部 ビジネスデザイン部長/藏原 潮
- モデレーター
- アジア航測株式会社 社会インフラマネジメント事業部 総括技師長
東京都市大学客員教授
法政大学専任教員/塚田 幸広 氏
はじめに
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(塚田)本日のテーマは、インフラマネジメントにおける 「2つの見える化」である。
1つは専門家・技術者に向けた見える化、もう1つは市民に向けた見える化。地下インフラは市民の目に触れず、関心が薄れがちだ。しかし現実には、水道管の破裂や道路陥没といった事故が常に発生している。
特に象徴的なのが、2025年に埼玉県八潮市で発生した大規模道路陥没である。地下10mの下水管が硫化水素により腐食したことが原因で、死者1名を出す深刻な事故となった。復旧は長期化しており、周辺地域には現在も影響が残っている。国交省は、老朽化・財源不足・人材不足という構造的課題に対し、「メリハリあるインフラマネジメント」と「見える化」を柱として掲げており、今回は産学の専門家とともにその具体像を議論する。

アジア航測株式会社 社会インフラマネジメント事業部 総括技師長
東京都市大学客員教授 法政大学専任教員/塚田 幸広 氏
テーマ1:専門技術者としての見える化
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(鍬田)笹子トンネル天井板落下事故以降、国交省所管インフラでは5年ごとの点検が義務化された。しかし、上下水道は停止が難しく、特に地下管路の点検は制約が大きい。
地下空間の地盤自体は安定しているが、構造物の劣化は確実に進行する。上水道の更新率は低く、また能登地震では、金沢から和倉まで続く約120kmの送水管が一本でつながっていたため、被災時の影響が極めて大きかった。ネットワークとしての脆弱性解消は喫緊の課題である。その中で、光ファイバによるひずみ計測など「地下インフラの見える化」が進展しつつある。阪神水道企業団の送水トンネルでは、施工管理から地盤変状の長期監視まで対応可能なセンシングシステムを導入し、継続的なデータ取得が行われている。
一方で、人口減少社会では従来と同じ規模・品質を維持することは難しい。
都市部では自治体間の情報・設備を共有し一部停止による効率的更新、地方ではガス事業と同様の管による供給と個宅供給の棲み分けといった供給方式の再設計など、地域特性に応じた「メリハリのある管理」が不可欠となる。

神戸大学 大学院 工学研究科
市民工学専攻 教授/鍬田 泰子 氏
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(塚田)人口減少を踏まえた新たな管理の枠組みが必要だ。松永さんはどう考えるか。
(松永)重要なのは、専門家が課題に向き合い、技術で解決できることに“ワクワクする姿勢”を持つことだ。インフラは技術だけでなく人口動態や都市計画とも深く結びついており、俯瞰的な視点が求められる。
自分が住む福岡市では、近年ほぼ通年で水不足警報が発令されている。線状降水帯による豪雨パターンの変化だけでなく、人口集中と導水路の脆弱性という構造課題が背景にある。
福岡都市圏人口200万人超のうち約3分の1を40km以上離れた筑後川水系に依存しており、災害で導水路が被災すれば深刻な事態となる。しかし、市民の多くはこうした実態を十分に理解していない。だからこそ、専門家内部の見える化と市民への見える化が両輪となることで、市民による生活見直しや財源投資判断が可能となる。
(塚田)今日は、多くの若手エンジニアも参加している。未来を担う若手に向けて“ワクワク”を解説してほしい。
(松永)社会課題が大きければ大きいほど、解決する側はワクワクできる。技術者は、技術・財源・制度といった多様な要素に挑み、社会の構造を変えて課題を解決する存在だ。その姿勢こそが社会貢献につながる。
(塚田)挑戦を称賛する文化が若手に成長機会を与える。インフラ分野には、まだ多くの挑戦余地がある。
メンテナンスだけでなく、計画・設計段階から将来的な維持管理を考える“インフラマネジメント”が重要だ。JR西日本はそれを実践していると思う。藏原さん、意見をお願いしたい。(藏原)鉄道も点検で容易に運行を止められないため、独自のマネジメントサイクルを築いてきた。明治期の台帳管理に始まり、管理値の設定、巡回・補修・更新を組み合わせた予防保全型の仕組みを長年積み上げ、安全を維持してきた。
「見える化」はITの時代に突然始まったものではなく、歴史の中で積み重ねてきた知見である。この経験をJCLaaSの総合インフラマネジメントにも生かし、他分野と連携して進化させていきたい。(塚田)最終的に、どこが“本当に危ない”のかを判断するのはAIではなく人間だ。鍬田さん、改めてコメントを。
(鍬田)見える化の技術は進展しているが、得られたデータをどのように活かすかが今後の課題である。10年後、20年後を見据え、蓄積データをどう運用するかの設計が必要だ。
テーマ2:市民への「見える化」
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(松永)インフラマネジメントは「人・物・金・情報」をどう配分するかという営みである。技術(物)と情報は進歩しているが、人は減り、財源の確保が最大の課題となる。そのため、市民に向けた“見える化”によって理解と支援を得ることが欠かせない。
私は「土木の妖怪マツ」として30年間、市民・子ども向け活動を含む土木広報に取り組んできた。分業が進んだ現代では、専門家も市民も“自分ごと化”する力が弱まっている。
だがインフラは本来、人口減少、食料・水不足、災害、老朽化、エネルギー、防衛といった国家的課題とつながっている。分業化が進むほど、専門家自身がその大きな文脈を見失いがちだ。市民に課題を伝えるには“ストーリー”が必要だ。
1970年に年間1万6,000人以上いた交通事故死者数は、歩道整備や道路設計改良など先人たちの地道な取り組みにより、1万人以上減少した。この歴史を語れなければ市民の共感は得られない。歴史を学び、「後の世のために何ができるか」を考えることが、インフラに携わる者のあり方である。国交省も「群マネの手引き」を作成するなど見える化を進めているが、最も重要なのは技術者一人ひとりが“自ら見える化に取り組む”ことである。
市民への見える化を確実に行うには、
①文章化→②数値化→③ビジュアル化
のプロセスが効果的であり、行政や市民に伝わりやすい。広報は専門職としての使命であり、「市民への見える化」は民主主義を支える基礎的なツールだ。歴史と文脈を踏まえたストーリーが心を動かす。専門的な分業は避けられないが、分断を生まないよう「教養としてのインフラ」を学ぶ機会を増やしてほしい。

株式会社インフラ・ラボ 代表取締役
横浜国立大学 総合学術高等研究院 客員教授/松永 昭吾 氏
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(塚田)鉄道事業者として、多くの市民が利用するJR西日本では、市民への見える化をどう進めているか。
(藏原)情報開示の姿勢は大きく変わった。不具合情報を積極的・迅速に公開するようになり、安全確保のため市民の理解を得る活動にも力を入れている。
計画運休もその一例で、早期の情報発信により市民に行動の選択肢を提供した。初回は批判も多かったが、継続的な説明により数年後には理解が深まり、「共助」の意識も高まった。鉄道は市民との信頼関係で成り立っており、「市民への見える化」は不可欠な取り組みだ。(塚田)市民として、また鉄道利用者として、鍬田さんからJR西日本に期待する点はあるか。
(鍬田)駅舎は地域の“顔”であり、画一的デザインではなく地域性を残してほしい。これは鉄道以外のインフラにも共通し、地域特性に応じたマネジメントが必要だ。計画運休も当初は戸惑いがあったが、継続的な情報公開により理解が進み、文化として定着しつつある。
(藏原)近年の駅舎は地域性を重視しており、広島駅や米子駅のように地域文化を取り入れたデザインは高く評価されている。
計画運休に関しても、情報発信だけでなくモニタリングをおこなっており、年間3万6千件のご意見をもとに改善を進め、暴風柵の設置など気象に応じた対策を取り入れて運休を減らす努力を続けている。(塚田)子どもたちは将来のユーザーであり担い手でもある。どうメッセージを伝えるべきか。
(松永)未来を不安として語るのではなく、「どうすれば幸せな国をつくれるか」を語るのが大人の役割だ。子どもは好奇心が強く、大人への“伝達力”も高い。子どもを巻き込むことで組織にも活力が生まれる。
(塚田)現場体験の効果は大きい。市民はインフラの「ユーザー」「納税者」であると同時に“オーナー”であるという認識を広め、自分ごと化してもらう必要がある。
- JR西日本のインフラマネジメント事業「JCLaaS」について
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(藏原)JCLaaSでは、行政・自治体の課題に対しJR西日本グループの総合力で伴走し、持続可能な地域づくりに貢献したい。地元企業の仕事を奪うのではなく、我々がインフラマネジメントを担い、パートナー企業とともに多分野・広域の課題を解決する。日本のインフラ課題の解決に寄与したい。
(塚田)鍬田さん、松永さんからもJR西日本に期待することを伺いたい。
(鍬田)都市計画において駅は中心的な存在である。行政と連携し、JRのストックを活用した「まちの未来づくり」に期待している。

西日本旅客鉄道株式会社 専務執行役員
デジタルソリューション本部 ビジネスデザイン部長/藏原 潮
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(松永)JRは“本物のインフラ”を持つ組織であり、子どもも大人も惹きつける力がある。財源・人材不足に悩む自治体とともに、覚悟を持って現実的な解決策を伴走型で実行してほしい。
(塚田)本日の議論を通じ、「専門技術者としての見える化」と「市民への見える化」の双方が不可欠であることを再確認した。
駅を拠点として地域と深くつながるJR西日本は、行政・市民とともに地域の未来づくりの中心的存在として、西日本地域の活力向上に貢献することが期待される。